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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)440号 判決 1977年2月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩沢誠、同田村誠一の上告理由について

一  思うに、個々の具体的な労働争議の場において、労働者の争議行為により使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、衡平の原則に照らし、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として根当性を認められるかぎりにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきであり、使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによつて使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによつてこれを決すべく、このような根当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れるものというべきである(最高裁昭和四四年(オ)第一二五六号同五〇年四月二五日第三小法廷判決・民集二九巻四号四八一頁、同昭和四八年(オ)第二六七号同五〇年七月一七日第一小法廷判決・裁判集民事一一五号四六五頁参照)。そして、このようなロックアウトの根当性の要件は、その開始の際必要であるのみならず、これを継続するについても必要であると解すべきことは、当然といわなければならない。

二  ところで、本件ロックアウトに関し原審の認定するところは、おおむね次のとおりである。

(一)  昭和三七年二月六日の春闘要求にはじまる本件労働争議は、ロックアウトの期間を含め一年七か月の長期間に及んだが、その間、上告会社の従業員をもつて組織する第一ハイヤー労働組合(以下「組合」という。)は右争議の当初時限ストを繰り返し、事務室、社長室、配車室、車庫等の壁、天井、窓ガラスなどに連日数十枚、数百枚のビラを貼つて会社の業務を妨げ、また本社事務室を同年六月一九日から占有排除等の仮処分が執行された八月四日まで約一か月半にわたつて不法に占拠し、さらには会社の指揮管理を排除してタクシーを運行した。

(二)  これに対して、上告会社は、組合のビラ貼り、本社事務室の占拠などにより会社の業務が著しく妨げられ、また組合が会社の指揮管理を無視してタクシーを運行したことなどにより会社の損害が増大しているとして、六月二二日、組合に対して全事務所のロックアウトを通告した。

(三)  ロックアウト通告後も、組合は本社事務室の占拠及び営業車の占有運行を続けたため、上告会社は、組合の本社建物及び営業車八台、その車検証・エンジンキーの占有排除並びに会社事業場に対する立入禁止などの仮処分を申請し、その決定を得て、八月四日これを執行した。なお右営業車八台は執行吏保管となつたが、組合は車検証及びエンジンキーについては見当たらないとして執行吏に対する引渡しを拒否し、ロックアウトが解除されるまでこれを返還しなかつた。のみならず、組合は、仮処分執行後の八月六日、階下が車庫となつている本社建物に接着してその入口前歩道に天幕を張り、同月二〇日ごろには更に板囲いをほどこすなど約一か月にわたつて右車庫への自動車の出入りを不能ならしめ、上告会社の本社建物の使用を妨げた。

(四)  組合は、七月三一日、八月六日、八月一四日の三回にわたり上告会社に対し就労要求及び団体交渉の申入れをしたが、上告会社は、八月一八日、組合及び組合員が(イ)会社の指揮管理の下に入ること、(ロ)本社社屋に掲げている組合旗を撤去すること、(ハ)車検証、エンジンキーを返還すること、(ニ)菊水支店から持ち去つた寝具を返還すること、(ホ)就業後三か月間一切の争議行為をしないこと、以上の条件を履行するならばロックアウトを解除し就労を認めると回答し、現状ではこれらが履行されていないとして就労を拒否した。

その後、九月六日から会社と組合の団体交渉が継続して行われるようになり、組合側はやがて春闘要求を口にせず、立上り資金及び処分問題に限定して交渉を進める態度に変わつたが、上告会社は組合が前記五条件を履行することが先決であるとの態度を固執して平行線をたどり、ようやく一年後の昭和三八年九月六日ロックアウトが解除されたものである。

(五)  本件ロックアウト期間中も、上告会社は、昭和三七年四月一二日結成された第一ハイヤー新労働組合(以下「第二組合」という。)の組合員及び非組合員を就労させて営業を継続し、ロックアウト当初、組合の占有下にあつた車両を除き三七台しか実働していなかつた営業車も、同年九月ごろには四五台運行できるようになり、ロックアウト解除時には五九台になつていた。またその経営も安定の方向をたどり、赤字が大幅に減少するまでに業績が回復した。

組合と第二組合の組合員の比率も、ロックアウト当初は組合の組合員約五〇名、第二組合の組合員六、七〇名であつたものが、同年九月ごろには組合の組合員は三〇名を割り、ロックアウト解除時には二五、六名に減少し、一方、第二組合は組合からの脱退者及びロックアウト後同年七、八月以降新規に採用された者を加えてその組合員数を増加し、ロックアウト解除時には一〇〇名を越えるに至つていた。

以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて首肯しうるところであり、その過程に所論の違法はない。

三  原審は、これらの事実によれば、本件ロックアウトは、組合の違法な争議行為に対抗し、企業を防衛するために適法に開始されたものであつて、先制的、攻撃的なものということはできないが、しかし、上告会社が組合の就労要求を拒否した昭和三七年八月一八日ごろには、組合はその組合員数を半減し力も弱くなつていたのに対し、上告会社は組織の大きくなつた第二組合の組合員及び非組合員によつて車両数も次第に増やして平常に近い営業を行い、経営内容も著しく改善されるなど客観情勢は上告会社にきわめて有利に変化していたのであるから、車検証、エンジンキーを返還しないなど組合に種々非難されるべき点があることを考慮しても、本件ロックアウトは前同日以降企業防衛の性格を失つたというほかなく、したがつて、上告会社のロックアウトによる被上告人及び選定者らの就労不能は上告会社が就労を拒否した右同日以降その責に帰すべき事由によることとなり、上告会社はこれらの者に対し賃金支払義務を免れないと判断しているのであつて、原審の右判断は、前記一に述べた見地に照らし、その結論において正当として是認することができる。論旨は、すべて採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本林 譲 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 栗本一夫)

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